79.ジカウイルス感染に伴う小頭症とギラン・バレー症候群

本連載76回でジカウイルスが南米で急速に広がり、新生児に小頭症、成人にギラン・バレー症候群を引き起こしている可能性について簡単に紹介した。その後も胎盤感染が疑われる小頭症の例数は増えており、2015年11月にブラジル保健省がジカウイルスによる小頭症の可能性を指摘してから、2016年3月末までに6776例が報告されている。小頭症とギラン・バレー症候群について2月から3月にかけて報告された論文の内容を紹介する。

 

ジカウイルスと小頭症

3篇の論文が速報として3月に発表された。最初の報告は、iPS細胞から作った人の大脳皮質の神経前駆細胞のモデルでジカウイルスと小頭症の関連を調べた研究である。神経前駆細胞は神経細胞に分化する前のものだが、これにジカウイルスを接種すると、未成熟の皮質神経細胞などに接種した場合よりも高い効率でウイルス増殖が見られ、細胞の死滅や細胞周期の異常が起きた。その結果、神経前駆細胞がジカウイルスの直接の標的と推定された(1)

 

ほかの2篇の論文は患者の脳内にジカウイルスの存在を確認したものである。2013年12月からブラジル北部でボランティアとして働いていた25歳の女性が、2015年2月に妊娠し、13週の時、発熱、激しい筋肉痛、かゆみ、全身の発疹などの症状で発病した。患者は妊娠28週で、ヨーロッパに帰国し、29週で超音波検査を受け、32週に中絶が行われた。胎児の脳は非常に小さく、電子顕微鏡でジカウイルスと推定されるウイルス粒子が認められ、ジカウイルスの完全なゲノムRNAが検出された。その塩基配列は流行ウイルスにほぼ一致していた(2)

 

次に報告されたのは、33歳のフィンランド人女性の例である。2015年11月末に妊娠11週の時に夫とともに中南米に観光旅行に出かけ、旅行中にふたりとも何回か蚊に刺されていた。ワシントンD.C.に着いた時に彼女は発病し眼の痛み、筋肉痛、微熱が5日間続いた。夫も同様の症状で発病した。フィンランドに帰国し、発病4週後の血清にはジカウイルス抗体(IgMおよびIgG)が検出された。IgM抗体は感染初期に出現したのち消失することから、急性期または最近の感染を示していた。妊娠13週から17週の間の超音波検査では異常は見られなかったが、19週の検査で頭の構造に異常が認められ、21週に中絶が行われた。ジカウイルスRNAが胎児の脳で大量に検出され、そのほか胎盤、胎膜、臍の緒でも見いだされた。胎児の脳からは感染性ウイルスが分離された。ウイルスゲノムの塩基配列は中南米で流行しているウイルスと99.6%から99.8%という高い相同性が見られ、アミノ酸では8—14個に変異が認められた。ウイルスの分離により、ジカウイルスが小頭症の原因であることが確認されたとみなせる(3)

 

ジカウイルスとギラン・バレー症候群

ギラン・バレー症候群は、四肢の筋力の低下などの急性神経炎で、通常10万人あたり1—2人で発生している。フランス領ポリネシアで2013年10月から2014年4月にかけて5895人のジカウイルス感染が疑われる患者が発生した際に、見つかった42名のギラン・バレー症候群の患者について、症例対照試験が行われた。患者と神経症状のない対照のグループについて、ギラン・バレー症候群の要因としてジカウイルスへの暴露が関わる可能性を疫学的に分析したのである。その結果、ジカウイルス感染の関与は統計的に高いことが認められ、フランス領ポリネシアの発生での住民がギラン・バレー症候群になるリスクは、10万人あたり24人と推定された。これは通常の発生頻度に比べて非常に高く、ジカウイルス感染が関わっている可能性が示唆された(4)

 

文献

1. Tang, H., Hammack, C., Ogden, S.C. et al.: Zika virus infects human cortical neural progenitors and attenuates their growth. Cell Stem Cell, 18, 1-14, 2016. http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2016.02.016

 

2. Mlakar, J., Korva, M., Tul, N. et al.: Zika virus associated with microcephaly. N. Engl. J. Med., 374, 951-958, 2016.

 

3. Driggers, R.W., Ho, C-Y., Korhone, E.M. et al.: Zika virus infection with prolonged maternal viremia and fetal brain abnormalities. N. Engl. J. Med., March 30, 2016. DOI: 10.1056/NEJMoa1601824

 

4. Cao-Lormeau, V.-M. Blake, A., Mons, S. et al.: Guillain-Barré Syndrome outbreak associated with Zika virus infection in French Polynesia: a case-control study. Lancet, Published Online
February 29, 2016 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(16)00562-6.