第23回集団遺伝学講座

安田徳一{YASUDA, Norikazu}


8.10 頻度依存型の選択

集団中における頻度が低い間は個体に有利であるが、高くなると不利になる形質を調節する遺伝子は平衡多型の原因となり得る。 たとえば遺伝子G1はある頻度pc以下のときは対立遺伝子G2より自然選択に対して有利であるが、pcを越えると逆に不利にあるとしよう。 選択係数はpcからの隔たりに比例するものとすると、G2の選択値を1としてG1のそれは1+K(pc-p)と表わすことができる。 Kは比例定数である。 3遺伝子型の選択値および受精時の頻度は次のようになる。 任意交配を仮定する。

遺伝子型 選択値 頻度
G1G1 1+K(pc-p) p2
G1G2 1+(K/2)(pc-p) 2p(1-p)
G2G2 1 (1-p)2

集団の選択値は w=1+Kp(pc-p) となる(Kは正の比例定数)から、遺伝子頻度の変化率を示す式は次のようになる。

Δp = Kp(1-p)(pc-p)/{1+Kp(pc-p)}

平衡点pcはΔp=0をみたすが、これが安定であるかは超優性の場合と同様にG1の平衡頻度をすこしずらしてこれがもとにもどる性質のあることを調べればよい。 そこで微小なずれをξとし、

p = pc

を遺伝子頻度の変化率を示す式に代入して、ξ2以上の項を無視すれば

Δξ = -Kpe(1-pe)ξ/{1+Kpe(pc-pe)}

あるいは

Δξ/ξ = -Kpc(1-pc) < 0

ずれξと次の世代に移る際の変化Δξは逆の符号であることがわかる。 すなわちKの大きさが4を越えなければ、この平衡は安定である。 異なった遺伝子型の間で分業が行われるときには、このような平衡多型のみられる可能性がある。

 

8.11 配偶子選抜と接合体選抜 (減数分裂分離ゆがみmeiotic drive)

分離比が1:1から歪み、多数産生された配偶子が接合体に有害な働きをすると平衡多型を生じることがある。 マウスで見つかったt遺伝子(Dunn 1957),ショウジョウバエのSD因子(Hiraizumi, Sandler & Crow 1960)やユリのB染色体(Kimura & Kayano 1961)などにその例がある。 前者2例の動物では雄の配偶子で問題の遺伝子が有利で、接合体のレベルで不利となるが、植物のユリでは雌の配偶子で有利で接合体で不利となる。 多型を維持する機構の詳細については原著にゆずるが、こここではマウスのt遺伝子について考察しよう。

マウスのt遺伝子は17番染色体上にある劣性致死因子であるが、雄のヘテロ(t/+)個体は減数分裂分離ゆがみmeiotic driveによって、、受精にあずかる精子の90%以上はt遺伝子を含む。 ただし雌での減数分裂にはこのような現象は観察されていない。 t遺伝子はホモ接合の状態で致死であるから、普通ならきびしい自然選択によって集団から取り除かれるところであるが、この場合にはヘテロの雄個体から産生される精子で頻度が高くなるから、この2つの相反する方向に作用する力の釣合いによって集団中に予想外に高い頻度で保有されることになる。 しかもこの平衡は安定である。

受精にあずかる雄および雌配偶子のt遺伝子の頻度をp*、p**とする。 ヘテロ接合は雄雌ともに正常ホモ接合と同じ生殖力をもつものとしよう。 任意交配での各接合体の頻度と選択値は次のようになる。

接合体 頻度 選択値
t/t p*p** 0
+/t p*(1-p**)+p**(1-p*) 1
+/+ (1-p*)(1-p**) 1

次の世代を構成する雌、雄の配偶子をそれぞれp*'p**'とすると、配偶子の分離比は

  t遺伝子 +遺伝子
k 1-k
1/2 1/2

であるから、次のように表わすことができる。

{ p*' = k(p*+p**-2p*p**)/(1-p*p**)
p**' = (1/2)(p*+p**-2p*p**)/(1-p*p**)

これから雄と雌のt遺伝子の比は常に p*/p**=2k となることがわかる。 また平衡状態では p*' = p* 、p**' = p** であるから、この2つの関係をたとえば上の第2の式に代入して次の関係を雌の平衡頻度pe**が満たすことがわかる。

4k(pe**)2-4kpe**+(2k-1) = 0

この2次式には実根が二つあるが、k=1/2、すなわち雄配偶子の不等分離がなければ、ホモ接合(t/t)が致死であることから、pe**=0、すなわちt遺伝子は消失する。 この性質を満たす実根は

{ pe** = (1/2)[1-√{(1-k)/k}]
pe* = k-√{k(1-k)}

t/t個体は致死であるから、成熟個体のうち+/+,+/tの予測頻度はそれぞれ

√{(1-k)/k}、 1-√{(1-k)/k}

となる。 いくつかの分離比歪みのkの値と+/+、+/tそれぞれの頻度は次の表で示した。

k 0.50 0.55 0.60 0.65 0.70 0.75 0.80 0.85 0.90 0.95 1.00
+/+ 1.00 0.90 0.81 0.73 0.65 0.57 0.50 0.42 0.33 0.22 0.00
+/t 0.00 0.09 0.18 0.26 0.34 0.42 0.50 0.58 0.66 0.77 1.00

マウスのt遺伝子については平均してk=0.96とのことである(Dunn 1957)から、この致死遺伝子をもつ個体は集団の約8割にも達することが予測される。

この平衡頻度が安定であることは平衡値の近傍の遺伝子頻度の変化の様子を調べればわかる。 すなわち平衡値からのずれをξとすると、近傍の遺伝子頻度は

p = pe*

とあらわせる。 若干の計算ののち、ずれの変化率Δξは次のように表わされる。

Δξ/ξ = -2[k-√{k(1-k)}]/[(1+2√{k(1-k)}] < 0

すなわち、ずれは毎世代小さく、しかもずれる方向が世代ごとに反転するので、平衡点に到達する。 すなわち安定である。

ショウジョバエのSD因子の観察から(k=0.83〜0.99)、雄、雌いずれにも減数分裂分離比ゆがみの大きさが違う場合の模型が工夫されている(Hiraizumi, Sandler & Crow1960)。 ユリの例はB染色体のうちf1染色体ではk=0.8で、この不等分離は胚の雌由来の細胞で生じる。 マウスやショウジョバエの例と異なり、ユリは有性、無性生殖の両方で殖え、f1染色体の分裂様式が単純な2倍体生物のようではない特徴がある。 模型の詳細については原著を参照されたい。

 

9.有害突然変異遺伝子の存在と集団適応度

有性生殖を行う生物の集団に多くの遺伝的変異があることはよく知られているが、この章では自然集団における有害突然変異の存在が集団の適応度にどのような変化が起きるかについて考察する。 中立な突然変異遺伝子については分子進化の章で述べることにしよう。

たとえばショウジョウバエのように比較的容易に遺伝子分析の行える生物では、自然集団から個体を採集して、交配実験によって劣性遺伝子の存在を証明することができる。 野生型とみられる個体がいくつかの致死lethal、半致死sub-lethal、低活性sub-vitalの遺伝子をヘテロで隠しもっていることもまれではない。 ヒトを含めた交配実験のできない生物でも、近親婚で産まれた個体の生存率の低下や、劣性遺伝病の出現率が高かったことなどで間接的にこれを証明することができる。

どのようにして遺伝的変異が集団に保たれているかは推論の域を脱し得ないが、基本的と考えられる原因が2つある。 再起突然変異が自然選択と釣り合う模型と平衡多型を生じる因子によるもので、そのうち超優性が重要な役割を果たしていると考えられる。

いずれにせよ集団中にはその生存環境に適したものと、そうでないないものとが共存し、短い目でみると自然選択の作用はその大部分は不適なものを集団から除くことに向けられているようにみえる。

 

9.1 遺伝的平衡が突然変異と選択の釣合い:任意婚集団

正常遺伝子をG1、突然変異により生じた対立遺伝子をG2とする。 G1からG2への突然変異率を1世代あたりuとし、G2はG1に対して完全劣性であるとすると、平衡状態での突然変異遺伝子の頻度は

p2e = √(u/s)

となる。 ただしsは劣性個体G2G2の選択係数である。 すなわち、正常個体G1G1、G1G2の選択値を1としたとき、劣性個体の選択値は1-sとなる。 平衡集団での集団適応度weは劣性個体の頻度が(p2e)2であるから、

we=[1-{(p2e)2}]x1+(p2e)2x(1-s)=1-(p2e)2s=1-u

であることがわかる。

集団に正常遺伝子のみしかなければ集団適応度weは1であるから、劣性突然変異が毎世代起きる新たな平衡状態では集団適応度は突然変異率uだけ低くなる。いくつかの遺伝子座で劣性突然変異が起これば、集団の適応度はそれぞれの遺伝子座の突然変異率をui とすれば、第一近似として

we =(1-u1)(1-u2)…=Π(1-ui)
  =exp{-Σui}
  〜1-Σui

で与えられる。

突然変異遺伝子が完全に劣性でなく、ヘテロ個体が若干の有害効果を示すものであれば

p2e=u/sh

となる。ここでshはG1G2の選択係数で、h2≫u/sとする。集団の適応度はG1G1の選択値を1とすればG1G2のそれは1-sh、G2G2のそれは1-sであるから、

we={1-p2e}2x1+2(1-p2e)p2ex(1-hs)+(p2e)2x(1-s)

≒1-2u

となる。

より一般的な形は

we=1-cu (1≦c≦2)

で表わすことができ、ここに

c =1-t+√{t(t+2)}、  t=sh2/{2u(1-2h)}  (h≠1/2)
  =2    (h=1/2)

となる。

突然変異率をu=10-5の場合でのcを求めると、次のようになる。

h 10-5 10-4 10-3 10-2 10-1 1
c (s=0.0) 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00 1.00
c (s=0.1) 1.00 1.00 1.09 1.62 1.98 2.00
c (s=0.2 ) 1.00 1.01 1.13 1.73 1.99 2.00
c (s=0.3) 1.00 1.01 1.15 1.78 2.00 2.00
c (s=0.4) 1.00 1.02 1.19 1.83 2.00 2.00
c (s=0.5) 1.00 1.02 1.20 1.85 2.00 2.00
c (s=0.6) 1.00 1.02 1.21 1.87 2.00 2.00
c (s=0.7) 1.00 1.02 1.23 1.88 2.00 2.00
c (s=0.8) 1.00 1.02 1.24 1.90 2.00 2.00
c (s=0.9) 1.00 1.03 1.25 1.90 2.00 2.00
c (s=1.0) 1.00 1.03 1.27 1.91 2.00 2.00

パラメータの値は実験的調査研究からおおよそ次の大きさであると言われている。

h=0.02〜0.05 ショウジョウバエの致死遺伝子(Muller 1956)
s=0.5〜1.0 ショウジョウバエ(Stern et al 1952)
u=10-6〜10-5 (Morton, Crow & Muller 1956)

したがって多くの有害突然変異遺伝子はヘテロの状態で数パーセント程度の害作用をあらわすと考えられる。すなわち c≒2 とした方が事実に近いといえよう。集団の適応度は

we=exp(-2Σui)〜1-2Σui

と表わせる。ここにΣuiは1配偶子(ゲノム)あたりの総突然変異率であるから、2Σuiは1個体あたりの総突然変異率とみなせる。

すなわち、突然変異による集団適応度の減少率は1個体あたりの総突然変異率に等しい。これはホールデン・マラーの原理と呼ばれている(Haldane 1937; Muller 1950)が、ここで大切なことは平衡状態における適応度の減少率は突然変異率にのみ依存して、突然変異で生じた個々の遺伝子の有害の程度には依存しない点である。もちろん従来の平衡状態から突然変異率の変化により新たな平衡に達するまでの変遷状態ではその限りではない。

ところが実際の生物では集団適応度はほぼ1に等しくなっている筈である。もしそうでなければ絶滅してしまうので、種が存続するには適応度の減少率を補う分、あるいはそれ以上に子どもを産まなければならない。ヒトの1個体あたりの有害突然変異率は20〜40%にもなる(Muller 1956)が、これを補う十分な出産力があると思われる。

母親が実際に産む娘の数をRとすると、種の存続のためには

Rexp(-2Σui)≧1

したがって

R≧exp(2Σui)〜1+2Σui

となる。

もし成熟前の死亡がすべて遺伝的原因によるものであるなら、上式の等号が成り立つ。すなわち、

R=exp(2Σui)

であると考えられ、突然変異がなければ R=1 だから、

(R-1)/R=1-exp(-2Σui)〜2Σui

は突然変異という遺伝的原因による死亡率(相対的リスク)をあらわしている。

突然変異による集団適応度の減少率を突然変異による荷重mutational loadという。これをLmで表わすことにすると、ホールデン・マラー原理は

Lem=(R-1)/R=1-exp(-2Σui)〜2Σui

と表わすことができる。

 

9.2 遺伝的平衡が突然変異と選択の釣合い:近親婚の影響

遺伝的変異性が集団に保たれていると、ヘテロの状態で隠されていた劣性遺伝子が、近親婚でその効果をあらわすと考えられる。したがって、その影響による適応度の減少率を調べれば、逆にどのくらいの劣性遺伝子が集団に保有されているかを推定することができる。

たとえばシャル・二ール(Schull and Neel 1965)の広島・長崎での調査によると、全体の20,716生産児のうち869が生後1年間で死亡した。これを両親の血縁度にしたがって分類してみると次のようであった。血縁度は両親の親縁係数あるいは生産児の近交係数(f)で表わしてある。

両親の血縁度(f) 広島(%) 長崎(%) 合計(%)
他人(0) 145/4,089(3.5) 273/7,988(3.4) 418/12,077(3.46)
またいとこ(1/64) 32/722 (4.4) 50/1,312(3.8) 82/2,073 (4.03)
いとこ半(1/32) 42/585 (7.2) 53/1,073(4.9) 95/1,658 (5.73)
いとこ(1/16) 101/1,651(6.1) 173/3,296(5.2) 274/4,947 (5.54)

このデータは1950年代に母親への問診、その子どもの診察とから収集した。(ただしこのデータは原爆の影響調査とは別に収集された)。乳幼児死亡率は遺伝だけでなくその生存環境からの影響も受けるが、このデータをみると近交係数が大きいほど、死亡率が高くなっている。この差は統計学的に有意である。劣性遺伝子の関与が伺われる。

突然変異遺伝子gはホモの状態でsだけ、ヘテロの状態でshだけ個体の選択値を下げるものとしよう。集団の近交係数をαとし、正常遺伝子Gとその対立遺伝子gの頻度をそれぞれp,q(p+q=1)とする。すなわち

遺伝子型 選択値 頻度
GG 1 (1-α)p2+αp
Gg 1-hs 2(1-α)pq
gg 1-s (1-α)q2+αq

集団適応度wは次のように表わせる。

w=1-s{2h+(1-2h)α}q-s(1-2h)(1-α)q2

突然変異遺伝子gの選択による1世代あたりの変化率は

Δq=-pq[s{(1-α)q+α}+sh(1-α)(1-2q)]/w

一方、G→gの突然変異によるqの変化率はup=u(1-q)であるから、平衡状態ではこのふたつの相反する要因による変化が打ち消し合い、平衡頻度は次の関係を満たす。

up-pq[s{(1-α)q+α}+sh(1-α)(1-2q)]/w=0

これはqに付いての2次方程式でるから、gの平衡頻度は0≦qe≦1の範囲でみつかる。一般的には電卓などで数値的に解を求めることができるが、たとえば突然変異率uがヘテロにおける有害作用にくらべてずっと小さい、あるいは数値的に

0<4u(1-2h)α≪s{h+(1-h)}2

の条件が成り立つならば、平衡における突然変異頻度と集団の選択値はほぼ次のようになる。

qe=u/(sz)

we=1-2u+sqeα

ここに z={h+(1-h)α} である。

この平衡状態における突然変異による遺伝的荷重は

Lem(α) =1-we
  =2u-u(1/z)α

となる。すなわち近親婚のある集団での突然変異による遺伝的荷重は任意婚集団での荷重に比べて小さくなる。これは近親婚により有害劣性遺伝子がホモ接合となり、集団から除かれるからと考えられる。

αは集団の近交係数で、集団で観察されるいとこ婚、またいとこ婚などそれぞれの近交係数の重み付け平均値である。重みはそれぞれのタイプの近親婚カップルの観察数である。前出の広島のデータから

α ={4089×0+722×(1/64)+585×(1/32)+1651×(1/16)}
/(4089+722+585+1651)
=0.0188

長崎ではα=0.0190である。

日本における近親婚の頻度は1950年代から減少の傾向にあり、地域差もある(Imaizumi 他 1975)から、一概には言えないが、現時点では少なくとも一桁のオーダーは低くなっている。

突然変異ヘテロの選択係数hsと突然変異ホモの選択係数sの比は、ショウジョウバエの伝子(s=1)ではほぼh=0.01〜0.02,弱有害遺伝子(s=0.023〜0.038)ではh=0.2致死遺〜0.3である(Mukai & Yamaguchi 1974).

致死遺伝子(s=1)による荷重はh=0.02、u=10-5/世代とすると

Lem(α)=u[2-50/{(1/α)+49)}]

だから、uの係数は次のようになる。

log10α -4 -3 -2 (log100.019)
-1.72
-1 1
Lem(α)/u 1.99 1.95 1.56 1.51 1.15 1.00

集団の近交係数がα=0.019程度の平衡状態では致死遺伝子による荷重は任意婚集団(α=0)のそれの75%、ほぼ3分の4となる。

一方、弱有害遺伝子(s=0.03、h=0.25、u=10-4; Mukai & Yamaguchi 1974)について同様な計算をすると次のような結果が得られる。

Lem(α)=u[2-4/{(1/α)+3}]

log10α -4 -3 -2 -1.72 -1 1
Lem(α)/u 2.00 1.99 1.96 1.93 1.69 1.00

集団の近交係数がα=0.019程度の平衡状態では弱有害遺伝子による荷重は任意婚集団(α=0)のそれの96%、とほぼ変わらない。

以上の考察から近親婚が日常的に行われている集団では遺伝的荷重が任意交配集団に比べて減少するが、その程度は近親婚率にも依存するが、α=0.002〜0.02では弱有害遺伝子よりも致死遺伝子による効果のほうが大きいことがわかる。事実南インドの近親婚率の高い地区での遺伝的荷重が比較的小さいことが指摘されている(Bittles &Neel 1994)。

日本ではこの半世紀の間に近親婚率が低下しているので、そのような経過をたどるときの遺伝的荷重を考察してみよう。突然変異率(u)と選択係数(s)には変化がないとすれば上記の議論を逆向きに考察することにより、集団近交係数が小さくなるのだから、突然変異遺伝子の頻度(q)は増え、その結果遺伝的荷重が増えることが分かる。

特定の近親婚から生まれた子どもの集団の遺伝的荷重を考えてみよう。これは近親婚の遺伝的影響として我々にとっての直接の関心事である。たとえばいとこ婚の子ども集団についてであれば近交係数はf=1/16=0.0625である。近親婚の子どもの集団選択値はこれまでの記号を用いてほぼ

w=1-cu-s(1-2h)qe(1-qe)f

となる。したがって近親婚の子供集団での遺伝的荷重は

Lf=cu+s(1-2h)qe(1-qe)f

となる。

致死遺伝子(s=1,h=0.02,u=10-5)と弱有害遺伝子(s=0.03、h=0.25、u=10-4についてLfを求めてみると次のようになる。

log10f -4 -3 -2 -1
致死 Lf/u 2.00 2.01 2.46 7.00

このことは劣性の有害遺伝子が集団から除かれた後では、環境が変化せず近親婚が続くことで比較的高い適応度を維持することができることを意味する。自家受精を行う植物の種で繁茂している例は少なくない。

 

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