56.CDRAP報告書:エボラワクチンの開発促進のための勧告

ミネソタ大学感染症研究・政策センター(CIDRAP: Center for Infectious Disease Research and Policy)から表記の報告が2月17日に発表された。ワクチンと公衆衛生などの分野の専門家26名が作成したもので、全部で81ページの総合的な報告である。このセンターの所長Michael Osterholmは米国の代表的疫学専門家で連邦政府のバイオテロ対策でも中心的役割を果たしている。

報告書は、西アフリカでのエボラの発生は減少し始めていて有効性の判定が難しくなる場合も想定されるが、予定されているすべてのワクチンについての試験を続けることが、現在の流行の沈静化と今後発生のリスクのある人たちを守るために必要なことを強調している。
さらに今後、エボラが西アフリカの風土病として定着する可能性があるため、従来通りの公衆衛生対策や医療活動とともにワクチンは不可欠の手段であるとしている。
多岐の項目にわたっている報告書の要点を、付属資料も含めて抜粋して紹介する。

臨床試験の状況

リベリアでは、2月2日に2/3相臨床試験が始まり、NIHのチンパンジー・アデノ3型ベクターワクチンとカナダ国立微生物学研究所のVSV(水疱性口炎ウイルス)ベクターワクチンについて、二重盲検・ランダム化比較試験がそれぞれ9000人を対象として行われる予定になっている。ほかに1相試験がJohnson & Johnson社のワクチン(天然痘ワクチン・ベクターにGP遺伝子を組み込んだもの)がリベリアで、Novavax社のワクチン(GP蛋白質とマトリックス蛋白質のナノ粒子)がオーストラリアで行われている。
シエラレオネでは、医療従事者を含むハイリスク群を対象として、当初18週間にわたってステップウエッジ・デザイン法で導入時期を順次ずらして行う予定だったが、流行状況が変化したため、デザインを現状に合わせることとなり、その詳細はまだ公表されていない。
ギニアでは、2つの方式が予定されている。ひとつは、リング・ワクチン接種方式である。これは、天然痘根絶などで用いられたもので、患者発生地域にしぼってその住民に対してただちに、または6-8週間後にワクチンを接種する。もうひとつは、最前線で働く医療従事者などに接種し、安全性と抗体産生だけを確認するものである。どのワクチンにするかは、報告書作成の時点では決まっていなかった。

ワクチンの有効性の判定

以下に列記したような多くの問題点がある。
ワクチンの有効性の判定についての最大の難点は、3相試験を実施する国での今後の流行が予測できないことである。最近、発生は急速に減少してきており、この状態が今後数ヶ月は続くと統計的に有効性を確認することが難しくなる。
いくつもの地域で行われる試験で、地域の背景が異なるため、比較が難しくなる可能性がある。ウイルスの侵入と広がった時期がばらばらなこと、対策の実施状況や住民の行動が変動すること、試験前の発生ですでに生じていた免疫の状況などから、二重盲検・ランダム化比較試験のためにはサンプルのサイズを増加させる必要が出てくる。
遠隔地域のインフラが整備されていないため、質の高い試験の実施が難しい。ワクチンによっては試験に間に合わないおそれがある。-80度での保存を必要とするワクチンもあり、このような超低温だけでなく-20度のコールドチェーンでも実現が難しいかもしれない。
流行地域の人たちが部外者や地域行政に対し不信感を持っているために、試験に参加する人数を確保できるか分からない。
人ではエボラウイルス感染防御に必要な抗体価が分かっていない。野外試験でも、ワクチンのデザインが異なり、作用メカニズムも異なるため、推定できないかもしれない。
チンパンジー・アデノワクチン3型ベクターワクチンでは追加免疫が必要かもしれない。VSVベクターワクチンは1回接種で多分大丈夫と考えられる。
地域によっては過去の発生で発病せずに免疫を獲得していた人たちがいる可能性があり、その比率が高い地域ではワクチンの有効性が判定できない。とくにギニアのような地域集団毎での試験ではこれが問題になる。
安全性と有効性に最適のワクチン接種量の選択も求められている。
流行時に用いるワクチンは、1回接種だけで90%有効、かつ急速に免疫が成立し2年間は免疫が持続し、アジュバント無添加で妊娠女性や慢性疾患の人も含むすべての人に使用可能なものが望ましい。さらにワクチンはザイール・エボラウイルスのみを対象とした1価ワクチンで2015年第三四半期までに500万ドーズが必要と推定される。
予防用ワクチンとして最適のものは、1回接種でエボラウイルス(ザイール型とスーダン型)およびマールブルグウイルスに対して10年間免疫が持続するワクチンが理想的である。

エボラワクチンと治療薬の承認へのプロセス

欧州医薬品庁(EMA)は、エボラワクチンと治療薬の評価を加速させるために、最近rolling reviewプロセスを設けた。これは、開発企業がデータを開発の途中から順次提出して評価を受け、最初の評価の段階から流行国などにも情報を提供することにより、ワクチン(または治療薬)の使用を決定するのに役立たせるシステムである。また別の方式として、1年間暫定的に販売を承認し、引き続いて科学的データにもとづくリスク・ベネフィットを示すこともできる。
米国食品医薬品庁(FDA)は、2011年に人での有効性試験が倫理的でない場合または実施できない場合には動物規則にもとづいて承認する方式を設けている。動物規則では、安全性が臨床試験で確認されていること、動物(齧歯類とサル)でのしっかりしたデザインでの試験により候補ワクチンまたは治療薬が人で臨床的に恩恵をもたらすことが要求されている。これとは別に、緊急事態に未承認ワクチンを必要とする場合の規則も決められている。

ほかに、倫理的側面についての検討、資金などについて詳細な検討結果が述べられている。アフリカで使用する際のワクチンの価格は1ドーズあたり0.5米ドルを目標とみなしている。

報告書のインパクト

この報告書にはエボラワクチンの定義(target product profile: TPP)、開発への道のり、規制、政策、商業面など、総合的なプロセスが示されており、WHOはすでにこの報告を利用しており、エボラワクチン開発は全般的にはこの報告書に沿ったものになっているとみなされている。

参考文献

CIDRAP: Recommendation for Accelerating the Development of Ebola Vaccines. Report and Analysis. February 2015.                      http://www.cidrap.umn.edu/sites/default/files/public/downloads/ebola_virus_team_b_report-final-021615.pdf

Report: Long-term Ebola threat makes vaccines essential.                        http://www.cidrap.umn.edu/news-perspective/2015/02/report-long-term-ebola-threat-makes-vaccines-essential