115.野生動物に潜むウイルス予測プロジェクト(PREDICT):コウモリから初めてエボラウイルスを分離

エマージングウイルスの75%は野生動物、とくに、サル、コウモリ、齧歯類に潜んでいると推測されている。エボラやSARSなどのエマージングウイルスが、野生動物の間で、どのように生息し、ヒト社会にどのようにして流出しているのか、野生動物とウイルスの相互関係を総合的に理解することが、エマージングウイルス対策の鍵となる。

アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)は、2005年以来、トリインフルエンザウイルスH5N1によるパンデミックの脅威に対して、PIOT(pandemic influenza and other emerging threats)計画を進めてきたが、その計画を補強するために、2009年、エマージング・パンデミック脅威計画(Emerging pandemic threats, EPT )を発足させた。これには、4つのプロジェクトPREDICT(予測)、PREVENT(防止)、 IDENTIFY(確認)、 RESPOND(対応)が含まれ、疾病制圧予防センター(CDC)が技術協力している。

特に重視されているのはPREDICTプロジェクトで、これは、野生動物とヒトの接点で動物由来感染症を検出、または発見することに重点を置いている。そのために、野生動物、およびそれらと接触するヒトについて、公衆衛生の脅威となる新しい病原体を監視する態勢が強化されている。

PREDICTプロジェクトの成果が最近集まりつつある。そのひとつとして、ニューヨークのEcoHealth AllianceのKevin Olivalらは、哺乳類とウイルスが関連するデータベースについて、ユニークなウイルスを保有する動物や、それらのヒトとの系統生物学的関連、生態などを解析した結果、2017年にコウモリが哺乳類の中でもとくに、新しいウイルスの流出源になる可能性が高いという予測をまとめている。

コウモリは、エボラウイルスの自然宿主と考えられている。しかし、40年以上にわたるエボラウイルスの自然宿主探しにもかかわらず、コウモリの可能性を示す状況証拠は蓄積してきたものの、コウモリから直接エボラウイルスが分離されたことはなかった。2018年10月、カリフォルニア大学デイヴィス校One Health Institute のTracey Goldsteinとコロンビア大学感染免疫センターのSimon Anthonyが中心となって、EcoHealth Alliance, シエラレオネのMetabiotaなどが参加したPREDICTプロジェクト・チームは、初めてコウモリからエボラウイルスを分離したことを報告した。

彼らは、シエラレオネで2016年3月から9月にかけて535匹の動物(コウモリ244匹、齧歯類46匹、イヌ240匹、ネコ5匹)から採取した1278のサンプルを、エボラウイルスの5つの種(ザイール、スーダン、タイフォレスト、ブンディブジョ、レストン)に共通する配列を用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により検査した結果、4匹のコウモリの口腔または直腸を綿棒で拭ったサンプルから、エボラウイルス遺伝子の断片を検出した。ミトコンドリアのチトクローム遺伝子との相同性から、3匹はコオヒキコウモリ (Chaerophon pumilus)、1匹はアンゴラオヒキコウモリ(Mops condylurus)と判定された。これらは、サハラ砂漠南部に広く生息する食虫性コウモリである。

次世代シークエンサー技術で、アンゴラオヒキコウモリの口腔サンプルからはウイルスゲノムの98%、1匹のコオヒキコウモリの直腸サンプルからは42%が回収され、それらから2つの完全なゲノム配列が得られた。両ゲノムの間には99.1%の相同性が見られ同一ウイルスと判断された。系統樹の解析結果から、このウイルスはエボラウイルス属の中の新種だった。ウイルスが分離された4匹のコウモリは、ボンバリ地域の人家で捕獲されていたことから、このウイルスはボンバリ(Bombali)エボラウイルスと命名された。コオヒキコウモリ、アンゴラオヒキコウモリいずれも、昆虫を食べているため、昆虫またはほかの節足動物のウイルスの可能性もある。しかし、昆虫のミトコンドリアとボンバリウイルスの存在に関連は見られず、ボンバリウイルスはコウモリのウイルスと結論された。

ボンバリウイルスがヒトに感染するかどうかを知るために、ボンバリウイルスのエンベロープの糖タンパク質を発現する組換えウシ水疱性口炎ウイルス(vesicular stomatitis virus, VSV)を作製して、ヒトの骨肉腫細胞培養に接種したところ、感染することが分かった。エボラウイルスは細胞膜に存在するニーマン・ピック病C1型タンパク質を受容体として感染するので、このタンパク質遺伝子を破壊した骨肉腫細胞に接種してみたところ、組換えVSV は感染しなかった。この結果、ボンバリウイルスはエボラウイルス受容体を介して感染していることが確かめられた。こうして、ボンバリウイルスがヒトに感染する可能性が示されたが、感染したとしても病気を起こすかどうかは分からない。サルで実験するにしてもBSL4実験室で行う必要がある。

ボンバリウイルスが分離されたコオヒキコウモリとアンゴラオヒキコウモリは、ザイールエボラウイルスを接種すると無症状感染を起こすことが、1996年に南アフリカ国立感染症研究所での実験で明らかにされており、また、2014年から西アフリカで広がった大流行の際の感染者第一号は、アンゴラオヒキコウモリから感染したと推定されている。しかし、これらの事例を除けば、エボラウイルスの自然宿主としては、これまでは主に果物を餌とする果食性オオコウモリが注目されてきていた。今回の結果は、食虫性コウモリに焦点を合わせた調査の必要性を示している。

文献

Olival, K.J., Hossein, P.R., Zambrana, C. et al.: Host and viral traits predict zoonotic spillover from mammals. Nature, 546, 646-650, 2017.

Goldstein, T., Anthony, S.J., Gbakima, A. et al.: The discovery of Bombali virus adds further support for bats as hosts of ebolaviruses. Nature Microbiol., 3, October 2018, 1084-1089.